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博士の愛した数式-黒澤明との融合 [邦画]

こないだWOWOWで、「博士の愛した数式」を見ました。
小泉堯史監督の作品は、「雨あがる」であまりの黒澤映画っぷりに驚かされたのですが、
「阿弥陀堂だより」では独自色に拍子抜けしていました。
ちょっとぬるくやさしくなったなぁ~という印象で。
今回も独自色なんだろうなぁ~との予想から観るのを控えていたんですが、
観てみてよかった。

博士の愛した数式.png

今回のは何でもないようなシーンに緊張感がある上、
そこに小泉監督のやさしさやほのぼのとしたものが加わって、
いい形で黒澤映画と独自色が融合されてたように感じました。
この緊張感を保つにあたって、うまく作用したのが、
常人とは違う宿命を持つ、博士の存在なのかな~
黒澤映画には、緊張感をただよわす登場人物が不可欠なんじゃないでしょうか?

ところが、現代劇を撮ろうとすると、
普通の現代人にはあれほどの緊張感を持った人間ていないんですよね。
「阿弥陀堂だより」がゆるかったのは、
寺尾聰の役柄がギリギリの宿命を持ったような人物じゃなかったからかもしれません。
だから、古典芸能のシーンばかり緊張があふれていて、
ドラマのシーンが緩く感じちゃうんだろな~
今回は、古典芸能のシーンの方が緩く感じるくらいでした。

どちらかといえば黒澤映画は、壮絶なラストシーンみたいなものを楽しむ映画ではなくて、
途中のなんでもないようなシーンが非常に面白い映画と感じます。
そのことは、鉄道マニアの旅行の楽しみ方のようなものとちょっと似てるような気がします。
例えば、札幌から有馬温泉にはいりに行くとします。
普通の旅行者は、有馬の金泉銀泉につかっていい気分になることや、
温泉施設で遊興することを楽しみにしますよね。
札幌から有馬までの行程は、ただのおまけで疲れる作業でしかなく、
できるだけ早く過ぎ去って欲しいものであるはずです。
しかし、鉄道マニアにとってはその行程こそが旅の醍醐味な訳です。

快速エアポートのUシートはどうなってるとか、関空から大阪市街までは、
前回南海ラピートだったから今回ははるかで行こうとか、
弁天町で乗り換えしたら思いがけず交通博物館があったので寄ってみたとか、
ちょっと遠回りだけどテクノポート線やニュートラムにも乗れるルートで行ってみようとか、
有馬までは行きはケーブルカーとロープウェイ乗り継いで
帰りは神戸鉄道と北神急行乗り継ぎの別ルートにしようとか・・・
もちろん、クライマックスである有馬温泉が楽しければ申し分ないわけですが、
その過程でもう十分楽しんでいるので、その時点でもとをとってしまっているんですね。
「博士の愛した数式」も、ラストシーンにいたる過程までに十分、
いい心地にされてしまっているので、ラストはいいにこしたことはないけれども、
特にそこで猛烈な感動が襲ってこなくても、いい作品だったなぁ~と思えるんですね。
そういうところも黒澤映画らしいと感じました。

余談ですが、このことは大ヒットした「君の名は。」にも言えることで、
「カタワレ時」の逢瀬のシーンで感じる思いが物凄すぎて、
二人が邂逅するラストシーンは、いいシーンではあるけれど、
こみ上げるものの量としては飛騨糸守でのシーンの方に軍配があがるのではないかと思います。
でも、それまでに大満足させられているので、とっても愛おしい作品となっていました。

劇中、寺尾聰と深津絵里など少人数だけが登場するシーンの他に、少年野球のシーンがあります。
そのシーンは、役者としてコントロール不能な多人数が画面に登場する場面となります。
そういったシーンにまで緊張感を持たすことだけは、
さすがに黒澤天皇のような権威がないと無理なのかも知れません。

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コメント 10

majyo

博士の愛した数式ですが、まず本を読みとても良かったので
映画も観たと思います。寺尾聡さんの何気ない優しさを感じ
深く覚えてはいないのですが、良い作品だと思いました。
小川洋子さんそれから注目した作家です
しかし悲しいかな細かいところは覚えていないのです

by majyo (2017-05-08 07:06) 

@ミック

majyo さん、コメントありがとうございます^^
おっしゃる通り、何気ないところがとっても良い作品だと思います♪
by @ミック (2017-05-08 08:04) 

JUNKO

寺尾聡さん、歳をとってだんだん風格が出てきた感じですね。独特の雰囲気が好きな俳優さんです。
by JUNKO (2017-05-08 14:49) 

Dick

ミックさんの表現がいいですね~!

実は、来月から2ヶ月ほどヨーロッパに行くのですが、
まさにおっしゃるとおりで、途中も楽しんでしまおうと
いうことで、使用する航空会社もいろいろ年により変えています。

映画の話題でなくて、すみません。
by Dick (2017-05-08 22:03) 

@ミック

JUNKOさん、コメントありがとうございます^^
寺尾聡さん、いつの間にか黒澤組に入ってましたね。
お父さんも歳をとって風格が出てきてたように記憶していますので、
遺伝なのかも・・・
by @ミック (2017-05-09 00:00) 

@ミック

Dickさん、コメントありがとうございます^^
そんな風に考えると、旅程を考えるのもたのしいですよね♪
by @ミック (2017-05-09 00:01) 

粋田化石

「博士の愛した数式」は映画を見た後に原作を読みました。
阪神タイガースファンの私には非常に入り込みやすい作品でした。
江夏投手の背番号28が完全数。これだけは覚えています。
by 粋田化石 (2017-05-09 09:51) 

風来鶏

寺尾さんの黒澤作品出演は、「乱(スターウォーズエピソード1で、あるシーンがオマージュされています)」「夢」「まあだだよ」でしたね(^^;;
でも私は、1年を通して信州の四季をフィルムに収めた「阿弥陀堂だより」が一番好きです(^_^)v
十数年前に、ロケ地となった長野県飯山市のオープンセットを観に行きました(^_-)
http://www.iiyama-ouendan.net/sightseeing/2012/07/1637.php
by 風来鶏 (2017-05-09 15:53) 

@ミック

粋田化石さん、コメントありがとうございます
江夏の時代のタイガース、懐かしいですね^^
by @ミック (2017-05-09 23:08) 

@ミック

風来鶏さん、コメントありがとうございます^^
「阿弥陀堂だより」といえば、北林谷栄さん。
あんなお年を召しても、演技できるんですねぇ。
驚きました。
by @ミック (2017-05-09 23:18) 

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